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札幌地方裁判所 昭和44年(ワ)1119号 判決 1972年3月30日

原告 トヨタカローラ札幌株式会社

右代表者代表取締役 柿本胤二

右訴訟代理人弁護士 馬見州一

被告 株式会社マツダオート北海道

右代表者代表取締役 横井久

右訴訟代理人弁護士 中島一郎

主文

一  被告は原告に対しマツダSSA四一年型小型乗用自動車一台(車台番号SSA―六三八九八号、登録番号札五む五二三九号)につき所有権移転登録手続をせよ。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

(主位的請求の趣旨)

主文第一、二項と同旨の判決並びに第一項につき仮執行の宣言を求める。

(予備的請求の趣旨)

1 被告は原告に対し金二二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和四二年一二月三〇日から支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

第二主位的請求についての主張

一  原告(請求の原因)

1  原告及び被告は、ともに自動車の販売を業とする会社である。

2  原告は、昭和四二年一一月二九日訴外土井友光に対して自動車(新車)を売り渡したが、その際、右代金のうち金三一万円の支払に代えて同人から主位的請求の趣旨記載の自動車(本件自動車)の譲渡を受けた。そして、本件自動車は、もともと被告が右訴外人に対してその代金完済までその所有権を被告に留保し、代金完済によってその所有権は当然同訴外人に移転する旨のいわゆる所有権留保付割賦販売契約によって売り渡し、その代金二二万五〇〇〇円の未払によりその所有権は被告に留保されるとともに、その所有権登録も被告名義になされていたものであるが、原告は、昭和四二年一二月二九日訴外土井に代わって被告に対して右金二二万五〇〇〇円を支払い、その結果本件自動車の所有権を取得した。

3  そして、被告は原告が右のとおり金二二万五〇〇〇円を支払った際原告に対し、被告名義から原告名義に直接所有権移転登録手続をすることを承諾し、訴外土井もまた原告に対し右のとおり所有権移転登録手続をすることに同意したものである。

4  よって主位的請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  被告(請求の原因に対する答弁)

1  請求の原因1、2項の事実は認め、同3、4項は争う。

2  仮りに訴外土井友光が被告から直接原告に対して本件自動車の所有権移転登録手続をすることに同意したとしても、

(一) 本件自動車は、昭和四二年一一月二九日原告から訴外夏坂要に、昭和四三年七月二六日同訴外人から被告に、同年八月五日被告から訴外梅沢に、さらに、昭和四四年五月一九日同訴外人から訴外トヨタオート南札幌株式会社に順次譲渡され、右訴外会社及び被告は、訴外梅沢の同意を得て被告名義から直接訴外会社名義に所有権移転登録を経由したものであって、被告は本件自動車の現在の所有権登録名義人ではない。したがって、原告の本訴請求に応ずる義務はない。

(二) そうでないとしても、被告は右のように訴外夏坂要から本件自動車の譲渡を受けることによってその所有権を回復しその登録権利者たる地位をも取得するにいたったものであるから、被告の原告に対する本件自動車の所有権登録義務は、民法一七九条二項の趣旨に照らし、いわば混同によって消滅に帰したものというべきである。

(三) そうでないとしても、被告は原告が本件自動車の所有権を取得して以来、原告の要求があればいつでもその要求に応じて所有権移転登録手続をなすべく準備していたのであるが、原告はその請求を怠り、昭和四四年七月本訴提起によってはじめて右登録請求権を行使するにいたったものであって、被告としては、原告は右登録請求権を放棄して行使しないものと信頼していたものである。原告の本訴請求は、右のようにその不行使によってすでに失効したともいうべき本件自動車の所有権移転登録請求権を、いまにいたって行使しようとするのであり、それ自体信義誠実の原則に反して許されないというべきである(最高裁判所昭和三〇年一一月二二日判決、民集九巻一二号一七八一ページ参照)。

三  原告(被告の主張に対する認否)

1  被告主張2の(一)につき、本件自動車が、いずれも被告主張の日にその主張のように、原告から訴外夏坂、被告、訴外梅沢を経て訴外トヨタオート南札幌株式会社に順次譲渡され、被告から直接訴外会社に対する所有権移転登録が経由された結果、被告が本件自動車の現在の所有権登録名義人ではないことは認める。しかしながら被告は売買契約の解除により訴外会社から本件自動車の所有権登録名義を回復のうえ原告に対してその所有権移転登録手続をすることは可能なのである。

2  被告主張2の(二)、(三)は争う。

≪以下事実省略≫

理由

一  主位的請求に対する判断

1  請求の原因2の事実は当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫を総合すれば、訴外土井友光は、右のとおり本件自動車を原告に譲渡するに当り、原告に対し、その所有名義を被告から直接原告に移転するいわゆる中間省略の登録をなすべきことに同意したものと認められ、他にこの認定を左右する証拠がない。

なお、原告は、被告も右中間省略の登録をすることを承諾した旨主張するのであるが、本件全証拠を検討し見てもこれを確認し得る資料はない。

ところで、道路運送車両法五条は、本件自動車のごとく同法の定めるところに従い自動車登録ファイルに登録された自動車の所有権の得喪については、その登録を受けることをもって第三者に対する対抗要件とする旨規定するのであるが、この規定の趣旨は不動産の物権変動につき登記をもってその対抗要件とするのと同様であって、本件のごとく中間省略の登録をなすに当っては、当該自動車の所有権の変動の過程を自動車登録ファイル上に如実に反影させ、かつは中間取得者の利益を保護する必要上、登録名義人、中間取得者及び中間省略の登録を請求する所有権取得者の三者間に、右のごとく中間省略の登録をなすべき旨の合意が成立することを要するのが原則であるが、例外としてすでに中間取得者においてその中間省略の登録に同意し、登録名義人においても売買代金の金額を受領するなどの事情があり、登録名義人にその登録名義を保有させなければならない実質的理由を欠くにいたった場合にあっては、右三者間の合意をまつまでもなく、前記自動車の所有権取得者から登録名義人に対し直接その所有権移転登録手続をなすべき旨を請求し得るものと解するのが相当である。そしてこれを本件について見ると、被告が原告から訴外土井友光に対する本件自動車売買残代金二二万五〇〇〇円の弁済を受けたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、被告と原告間には右のごとく中間省略の登録をなすべき旨の合意こそ成立していないものの、被告は、訴外土井に対する本件自動車の売買代金全額の弁済を受けた結果、原告が被告に対し、被告から原告に対し本件自動車に関し中間省略の所有権移転登録をすることによって被告に迷惑をかけない趣旨の念書を交付し、本件自動車の自動車検査証、納税証明書を提示するなどの形式的な手続さえ履践すれば、直ちに右の中間省略の登録に同意し、原告の請求に応じてその旨の登録手続をなすべき用意があったにかかわらず、原告において右手続をしなかったため、そのまま現在に及んだことが認められ、他に右認定に反する証拠がない。以上の事実によれば、被告は、訴外土井に対する本件自動車売買代金の金額の弁済を受けることにより、すでに本件自動車につき被告名義から原告名義に中間省略の所有権移転登録がなされることによって害されるべき具体的利益は存在しなくなったのであり、したがってまた被告に本件自動車の登録名義を保有させなければならない実質的理由を欠くにいたったというべきである。

2  以上のとおりであるから、被告は原告に対し、他に原告の本訴請求を妨げるべき他の事由が存在しない限り、本件自動車につき所有権移転登録手続をなすべき義務がある。

3  よって、以下被告の主張について判断を加える。

(一)  被告の主張(一)について見るに、本件自動車が原告から訴外夏坂、被告、訴外梅沢を経て訴外トヨタオート南札幌株式会社に順次譲渡され、被告から直接訴外会社に対する所有権移転登録が経由された結果、被告が本件自動車の現在の所有権登録名義人ではないことは当事者間に争いがない。したがって、原告が本訴において勝訴の確定判決を得たとしても、この判決をもって、直ちに所轄陸運局長に対し、これに添う本件自動車の所有権移転登録の実行を求め得ないことは明らかである。しかしながら本件訴訟の本質は、道路運送車両法三九条一項自動車登録令一〇条の各規定により自動車の所有権移転登録については登録権利者と登録義務者による共同申渡主義が採用されているにかかわらず、登録義務者たる被告において任意にその登録手続に協力しない結果、民法四一四条二項但書により被告の意思表示に代わる判決を求めるものであり、右判決の確定によって被告がその旨の意思表示をしたものとみなされるのであるから、本訴においては、要するに被告が原告に対し右のごとき意思表示をすべき義務を負担するかどうかを確定すれば足り、この確定判決どおりに自動車所有権移転登録が実行されるかどうかは自から別個の問題であって、被告が本件自動車の現在の所有権登録名義人ではないことは本訴を認容する妨げとはならないのである。同時にまた、被告が右のように現在の登録名義人ではないことにより原告の所期する自動車所有権移転登録が直ちに実行し得ないとしても、被告と訴外トヨタオート南札幌株式会社との合意その他により右訴外会社名義をもってなされた所有権移転登録が抹消されるなどして被告が本件自動車の所有権登録名義人たる地位を回復すれば被告はその際本判決をもって直ちに所期する所有権移転登録を受け得るのであり、その意味において、原告は被告に対して現在時点において本訴請求をする利益があるのであり、また、その意味において、本訴を被告が将来本件自動車の所有権登録名義を回復したことを条件とする将来の給付の訴として構成する必要もないのである。

(二)  被告の主張(一)について見るに、被告がその主張するように本件自動車につき登録手続請求権を取得したとしても、それは訴外夏坂要に対する権利であって、被告の原告に対する登録手続義務と混同するいわれはないし、その性質上民法一七九条の規定を類推又は準用すべき場合ではないことは明らかであって、その主張自体失当というほかない。

(三)  被告の主張(三)について見るに、原告が昭和四二年一二月二九日に本件自動車の所有権を取得したことは当事者間に争いがなく、本訴提起の日が昭和四四年七月一八日であることは本件記録によって明らかである。したがってその間僅か一年七月余が経過したにすぎず、しかも、本件全証拠を検討して見ても原告において被告に対する本件自動車の所有権移転登録請求権はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由があったことについては何ら立証するところがないから、この主張もまた採用の限りではない。

二  以上のとおりであって、原告の主位的請求は理由があるから正当として認容し(なお、予備的請求についてはその訴旨にしたがいその当否は判断しない。)仮執行宣言の申立は理由がないからこれを却下し、民訴法八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原島克己)

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